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読みきり作品 吉野慧

投稿作品『彗星』 著者:吉野慧


 星くずの混じった波にのって、女が流されてきた。

 きらきらした彗星のよく流れる爽やかな夜に、海辺に打ち上げられた女は、ぼくの家に住むことになった。はじめに女を見つけた、ぼくの所以外に、行くあてもなかった。
どこから流されてきたのか尋ねても、明瞭としなかった。
深い海の底だと言う時もあれば、遠い空の更に遠くだと答える日もあった。
それでも、大きな地震で起きた、ひどい津波で流されてきたことだけは確かなようで、地震について尋ねると、大きく澄んだ黒い瞳を潤わせて、必ず窓に肘をついて海の彼方に視線を背けるのだった。
 幾日もの夜を過ごし、幾千もの星を眺めた。
温かい潮風が流れる夜には、柔らかい波に包まれて、二人で海辺に仰向けになった。よく、心が落ち着いた。
海と、夜と、そして女ともひとつになれた。月明かりが水面に映れば、月ともひとつになった。
人と人との出会いって、引力のようなものだと思うの、と女が言った。
「引力?」
「そう、引力。波が押したり引いたり、それって引力のおかげでしょう」女は少しだけ口角を動かして、そして嬉しそうに瞳を輝かせていた。
「じゃあぼく達の出会いも引力のおかげなのかい」と、ぼくは尋ねた。
「そうよ、そう。あなたが遠い都会からこの海辺に引っ越していなくても。見晴らしが良いからって、わざわざ小高い不便なところに立つ、ドアを閉める度に流星をポケットに入れて叩いたような音がする、古い家を借りていなくても。そういう全てがなくたって、わたしたちは出会っていたの」女は身体を起こして、長い絹のように滑らかな黒髪からさらさらと水を滴らせた。

「じゃあ、ぼくがずっと故郷の街に居たらどうやって出会っていたの?」
「そうね。川から流れてきたかもね」
「じゃあどこかの砂漠の行商人の子として生まれていたら?」
「オアシスの底から湧き出てきたっていいし、別に空から降ってきてもいいのよ」
「そうかな」
「そうよ、わたしたちは引かれ合ったのね。たとえ、どちらかがあの銀色の月にいたとしても。あなたが百年後に生まれていたとしても、どれだけの時間をかけてでも引かれ合って、そして出会ってしまうのよ」
 
 いつのまにか、ぼくたちの手は繋がっていた。離そうとしても、はなれそうになかった。繋いでいようと思えば、直ぐにほどけてしまいそうだった。
二人の手の中ではただ、ゆっくりと波が揺らいでいた。
幾つかの星が砕けてちりぢりになる度に、大空を彩って、女を見つけたあの日と同じように星の欠片が海に落ちていった。

気付くと女はいなくなっていた。波に乗っていってしまったのかもしれないし、あるいは最初からいなかったのかもしれない。
ただ、ぼくの手の中には、角の取れた滑らかで温かい欠片だけが残っていた。



Comment

脳が痺れました。

清冽な幻想感に、どっぷりと浸らせていただきました。
吉野さんの紡ぐ世界の、また別の一面ですね。

読んでいる最中から、静かな、ころころとした音楽が流れています。
読了した今も、その美しい音色が胸を転がっています。
(なんという楽器なのかな…。鉄琴をもっと優しくした感じなんですよね)

今、『夢十夜』の第一夜を思い浮かべております。

No title

クロミミさん、コメントありがとうございます。
まったくその通りで、『夢十夜』第一夜を参考にした話です。
また、パウロ・コリーリョ『アルケミスト』のような綺麗な話を書いてみようと思って書き出してみたのですが、やっぱり難しいですねー...

しばらくは、美しい話にチャレンジしたいと思います。
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