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竹の子書房用:黒実 操

竹の子書房【七夕企画参加 『私は誰ァれ?』】 黒実操。


 そいつは――。
 一年に一度、やって来る。
 七夕の夜に、少年探偵のもとへとやって来る。
 塀に乗り、しかし明らかに足元が危うく、グラグラと立っている。
 大きなシルクハットをかぶり、顔一面を覆う蝶の形をしたマスク。見るからに、動作にも視界にも支障がありそうだ。
「あはははは! 間抜けな探偵め。今年もまた私(わたくし)の侵入を許したか!」
 高らかに笑う、そう、そいつは黒マントに身を包んだ怪盗。
 ただし自称だ。
 迎え撃つは探偵。今宵で十六歳の少年探偵。
「許すも何も、今までお前が何を完遂したって言うんだい?」
 探偵は、こめかみを揉む。露骨に溜息を付き、呆れ顔を隠そうともしない。
「去年は、僕の盆栽を誘拐未遂。一昨年は、進入前に本物のお巡りさんが来てトンズラ。えーっと、その前は……」
「バッ、馬鹿っ! そんなこと言わなくったって」
 怪盗がマントを翻す。裏地は真紅だ。
 絶妙のタイミングで、カァッと灯りがその姿を照らす。はいはい車のヘッドライトですか、と、少年探偵はお見通しなのだが、面倒なので口には出さない。
 そんな心遣いなど、さっぱり気付かない怪盗は、態(わざ)とらしく高笑う。
「あーっはっは! お前の子猫は預かった」
 その胸に抱いているのは、確かに探偵の愛猫【ふみん】だった。
 予想の外だったのか、探偵は軽く驚いた。
「あッ、お前、いつの間に。卑怯だぞ」
「いつの間にも、クソも…やだ私ったらクソとか、違う、その、あれ、あの、ああああ、馬鹿っ!」
「……何、怒ってるんだよ」
「だからッ、ほら、この子猫を攫っちゃう! あはは、ほら、攫っちゃうから」
 少年探偵は、こめかみを揉みながら呟く。
「ふみんは、僕のことしか好きじゃないんだぞ」
 その言葉が終わらぬうちに怪盗の口から、けたたましい悲鳴が迸(ほとばし)る。
 ふみんが、怪盗に大胆なネコパンチを繰り出して、その顔面を覆っていた仮面をふっ飛ばしたのだ!
「あああ、ダメ、ちょっと、あん、ひゃん!」
 思わず怪盗の手が緩み、ふみんは自由になる。ふわりと宙を舞ったは一瞬、電光石火の勢いで愛する少年探偵の下(もと)へと駆け戻った。
「んひゃっ、あああああ、」
 均衡を崩した怪盗は、マントに埋もれながら仰け反り、両手をバタバタさせつつ、後ろ向きに落ちていく。
 ボコンがんグシャ痛アァああゝい。
 ヒソヒソと話し声。
 少し声が高くなる。言い争うふうに。
 だが、
 バン!
 ブロろぉォォおおお。
 自称怪盗は、光源だった車と共に去ってゆく。
 ――シンとした夜が帰ってきた。
「……ッあ、あ~あ、せっかくの誕生日なのに。今年もこうか。お疲れさん」
 探偵は、ふみんに頬ずりをしながら、肩を竦(すく)めた。
 
 翌々日。
 少年探偵の事務所に、ある意味お得意様ともいえる某財閥のご令嬢が現れた。
「依頼をしてやるわ」
「お断りします」
「何ですってぇ!」
 幾度となく繰り返してきた、お約束のやり取り。
 そう、あれは『四肢累々事件』以来。もう出会って何年になるだろう。
「僕は、貴女が思っているほど暇じゃないんですよ。……その帽子は何(なん)ですか。随分馬鹿げていますね」
 探偵が、プッと吹き出した。
 令嬢は、顔の半分が隠れるほどに大きな羽根付き帽子をかぶっていたのだ。
 そんな帽子が流行っているなんて、事実はない。
 ハイカラ自慢の令嬢が、こんな妙ちきりんなナリをするとは。少年探偵は込み上げる笑いを堪えることが出来ない。
「な、何が可笑(おか)しいのよッ!」
 令嬢は、帽子の陰から、赤い引掻き傷が覗いていることを知らない。
「ああ、失敬。ちょっと思い出し笑いをしましてね。いや、貴女とは全然ちっともさっぱり関係なんかないんですよ」
 今年の七夕の怪盗は、【私が誰だか、当ててみろ!】という決め台詞を言う前に、不本意ながら退場してしまった。ふみんの反逆は、さぞ誤算だったことだろう。
「ジロジロ見ないでくださる? 失礼だわ」
「失敬、プッ、本当に失敬。あ、ふみん、お客様にご挨拶をしないか」
「え、」
 少年探偵の足首に、その柔らかな身体を擦り付けつつ、子猫のふみんが現れた。
 にゃふと一声鳴き、子猫に似合わない不敵な眼差しで、令嬢を睨む。
「あ、やん。ちょっと、私、猫が苦手なのよ!」
 令嬢が、椅子から腰を浮かす。
「おや、それは初耳です。この前いらっしゃったときは、たいそう猫好きだと」
「知らないわ! この前はこの前よッ! もうッ、私、帰るわ!」
 慌ただしく、令嬢は出て行った。
 どうやら護衛を表に待たせていたようだ。ヒソヒソ声で、何やら聞こえる。
 そして、静かになった。
 ふみんを膝に座らせて、探偵は呟いた。
「僕はね、素直な娘さんが好みなのさ。全く仕方のない人だ。……そうだ。来年の七夕様に祈るとしようか」 
 バン!
 ブロろぉォォおおお。 
 少年探偵の事務所の前から、大きな自動車が走り去る音。
 探偵は、こめかみを揉んでいる。
 それをうっとりを見上げ、にゃふと、ふみんが鳴いた。


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