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読みきり作品 吉野慧

投稿作品『イモリ』 著者:吉野慧

遠い雲と雲の隙間から、月の光がさしていた。

見ると、月は水辺の幾匹ものイモリを照らしている。
足と足とをくねくねさせ、汚い泥の底で折り重なって、苦しそうにもがいている。

よく見てみると、ここらはイモリだらけであった。
川辺の砂利のちょっとした隙間にもイモリがいて、小さい目でじっと私を見ている。
そんなイモリを取っている男が何人もいる。そこらかしこでキュッ、という鳴き声が聞こえる。
それが何とも気味が悪い。
逃げるように道を急ごうと先へ進むと、石橋の下に隙間だらけの貧しい小屋がある。

小屋の傍には少女がいた。おかっぱの赤い着物の少女である。
イモリを取っているわけではない。
周りに親らしきものも見当たらない。どうやら、あの小屋に住んでいそうである。
しかしどうも合点がいかない。それは不自然である。

怪しく思った私は、川でイモリを絞める男に、あの少女は何かと尋ねてみることにした。
どうも男によると、少女は元来ここで父親と二人で過ごしていた。
それが、ついこの前に父親が死んだので、何をするでもなく仕方なしに一人でいるそうだ。

ただぼうっと闇夜の中でうずくまっている少女は、淋しそうであった。
ろくな飯も食べていないのだろう。
そこらの雑草の方がよほど生物に見える。
小屋も少し叩けば砕けてしまいそうで頼りがない。

「あんなに貧しくて、死んだ父親はどうしたのか」
「さあ。葬式なぞするわけもなし、一人で荼毘にもふせないだろう。きっと川に流したのではないかね」
そう言われると、なんだかそんな気がした。
「流された死体はどうしたのか」
「知るもんか。海にまで流されたのかもしれないし、どこかで腐ってイモリに喰われたのではないか」
男はイモリを手の中で絞めながら言う。
「イモリは人間を喰うかしら」
「喰うさ。イモリは卑しいからなんでも喰う」
そう言うと、男はイモリを追い掛けて川の奥底へと消えてしまった。


そのまま暫らくそこで、ぼんやりとしていた。
気付けば辺りに人は、私と少女だけになってしまった。
もはや月は雲に隠れ、辺りは暗闇になり何も見えなくなった。
少女は死んだように物音ひとつたてない。聞こえるのは川の泣くようなせせらぎと、イモリの蠢くヒタリヒタリという足音だけだった。


なんだか心が落ち着かない。胸が締め付けられ、俄かに涙がこぼれてきた。
私は怖ろしくなって川を背に、少女へと向かって手探りで闇の中を歩いたが、いつまで経っても少女に触れることはできなかった。
Comment

おひさしぶりです!

今回も美しいお話を、どうもありがとうございます。

イモリのぐねっとした質感が、そのままこのお話に閉じ込められているように感じます。読みながら、自然と呼吸を潜めてしまいそうになりました。「私が読んでいることを知られてはならない」と。読んでいる私と、作中世界とが繋がっているような恐ろしさがあります。

川の奥底へ消えていった男が、すっと背後に立っているんじゃないか。
そんな錯覚に囚われているのです。

掲載ありがとうございます。

久しぶりの投稿ですみません。
少女が自分の父を川に流す、というイメージで書きはじめたこの作品。死に向かいつつある少女との対比で何かいい生き物はいないかと思いついたのが、イモリでした。
私のイメージが少しでも表現できていたら幸いです。
また新作ができた時は、どうぞよろしくお願いします。
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