お話の、あるところ。

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竹の子書房用 とよね

竹の子書房ハロウィン企画『猫とおしどりを連れた冒険』 とよね著

 1 

 罪人には時間がなかったが、おしどりを連れて行こうと思った。何せこれだけいるのだから一羽くらい構わないだろうと、池の畔へ駆けだせば、一斉に飛びたつおしどり達の中にいた、一羽だけ逃げも隠れもしない、どんくさい雄のおしどりを捕らえることに成功した。
「ホホホ、私はおしどりですよ」
 おしどりが言った。多くのおしどりがそうであるように、そのおしどりもトロリと眠たげな目をして腕の中で羽ばたいたが、逃げようとはしなかった。
「ホホホ、私を誘拐する気ですか?」
「そうだ。一緒に来い」
 罪人はバスケットにおしどりを押しこむと、上からタオルを何枚も重ねておしどりを隠した。
 おしどりは身震いをして、顔を、トロリとした眠たげな目をタオルの下から現した。
「ホホホ、私はおしどりですが、どこへ行こうと言うのです」
「上に行く。俺は上の世界を見てみたい」
「ホホホ、ホホホ」
 おしどりがタオルをはねのけ羽ばたいた。
「私はおしどりですが、それは無理だと思いますよ」
 罪人は住みなれた家に背を向けて走り出す。彼は自分の年齢を知らなかった。成人している。二十を少し過ぎたあたりか、あるいは半ばあたりかもしれない。池の畔の小さな家には物心ついた時から住んでいたが、もう二度とは帰らない。
 さよなら我が家。さよなら世界。猫が一匹走ってきた。罪人はおしどりを連れて行こうと思ったが、猫を連れて行こうとは思っていなかった。
「にゃん、にゃん」
 猫は彼の急ぐ足にまとわりついた。
「にゃん、にゃん。ぼく追剥(おは)ぎにゃん」
「あっちへ行きな、邪魔な猫め」
「僕も上の世界に行くにゃん。お前が寂しいだろうからついてってやるって言ってるのに、ばかな人間だにゃん」
 なんて生意気な猫だと呆れたが、ふと後ろを振り返ると、丘のふもとに停められた車から、太った警部が出てくるのが見えた。少年探偵が活躍する世界から来た、間抜けでお人よしの警部だ。
 罪人は急いで丘を駆け上った。猫は勝手について来た。

 2

 今日の中谷先生はよく粘った。押入れの中からでは、玄関でかわされる会話は聞き取れなくて、いっそ中谷先生がママをおしのけて私を見つけてくれればとも思ったが、そうはならなかった。
「この、ガキめ」
 中谷先生が追い返されてすぐ、押入れが開き、『あの男』の太い腕が少女を引きずり出した。
「またお前のせいで面倒なことになったじゃねえか。何でおれがあんな目で見られなくちゃいけないんだ」
 などと言いながら、『あの男』は畳の上で少女を殴ったり、蹴ったりしだした。
 少女は頭に怪我をしていた。食器を洗うのが遅いから、と麺棒で思いきり殴られたのが半月ほど前。血が出て、もちろんそれはとうに収まっているが、今でもまだひどく痛むし、立てないほど眩暈がしたり、吐いてしまったりする。
「そいつ、ベランダに出そ」
 煙草を吸いながらママが言った。
「ごめんなさいも言えない奴はうちの子じゃないんだ」
 その通り、少女はベランダの冷たいコンクリートの上に放りだされた。
 雪こそ降っていないものの、この地方の十月末はすでに冬のように寒い。
 頭が痛いし、顔や体じゅうの痣が痛いし、ぼんやりする。目の焦点はあわず、悲しいとか辛いといった感情ももはやない。誰にも気遣われることなく少女は目を閉じる。

 3

 その廃病院は、管理を放棄された夜の森にひっそり佇んでいる。そこでは院長が首を吊ったとか、中で浮浪者が焼き殺されたとか、肝試しにきた不良が行方不明になったなどのありがちな噂に満ちていて、今夜もまた四人の若者たちが、鉄条網の破れから病院に吸いこまれて行くところだった。
 全ての懐中電灯の光が病院内に消えた。
「ダメ、これ以上は行けない」
 外来受付から少し進んだところでユミが立ち止まった。
「どうした、何か見えるの、ユミ」
 と、ユミのカレシのケンタ。
「うん。あの廊下の向こうから、黒焦げの人がこっちを睨んでる!」
「嘘ばっか」
 二人から少し離れた位置の、売店の前でミユキが小さく囁いた。
「浮浪者が殺されたとかデマだし」
「そうなの?」
「そうだよ。まさかリョウタ、信じてたの?」
「でもユミ霊感あるって言ってたけど」
 ミユキは冷たく鼻を鳴らした。そして声を張り上げた。
「おおい! ねえ、地下のほう行ってみようよ! たしかさー、浮浪者が住んでたのって地下なんじゃね?」
「やめよ。ねえ、もうやめとこうよ」
「えー。見に行こうよ。殺されたあと。行かなきゃ、来た意味ねーし」
「ああ、頭が痛い!」
 うずくまったユミのほうへ、苛立ちと冷笑がいりまじった複雑な表情のミユキが一歩踏み出したとき、黄色い光が廃病院の暗闇を蹴散らした。
 耳を衝く汽笛。列車の走行音。
 光は正面玄関の外から来る。
 四人は硬直したまま混乱に陥ったが、まぶしさに耐えて少しずつ目をあければ、玄関の外に光の帯が走っている。それが減速していく。列車だ。外を列車が走っている。
 四人は玄関に歩み寄った。
 それは汽車だった。煙のにおいと黒光りする車体が、四人の前で停車した。
 ドアが開き、汽車から降りてきた青年が、夜気を含んで湿った土を踏んだ。
「ああ、ここは」
 青年がしゃべった。
「怖い話の世界かな」
「何だお前」
 リョウタが四人を代表して前に出た。が、
「てかなに、その汽車。ははっ。えっ? お前どっから来た……んですか?」
 すぐに弱気になって後ずさった。
「上へ行く方法を知らないか?」
「上?」
「分からないようだな」
 失望した様子で首をふると、青年は表情を引き締め、改めて四人を見回した。
「失礼する。君たちの世界観を荒らして悪かった」
 青年が汽車に戻る。
 汽車は地面を離れ、月に向かって飛び立った。四人と、四人には見えない悪霊たちが、汽車をぽかんと見送った。

 4

 祖母の家には猫がいたが、少女には懐かなかった。まだ優しかった頃のママに連れられて何度も祖母の家に行ったが、猫が少女に体を触れさせたことはついぞなかった。
 いや、一度。
 ある日少女は、当時大切にしていたぬいぐるみに猫がじゃれついているのを見つけた。猫が乱暴にじゃれたせいで、うさぎのぬいぐるみだったのだが、その目玉が取れかけてブラブラしているのを見たとき、カッとなって猫に襲いかかった。
 猫はすぐ縁側へと逃げ出したが、怒りのこもった少女の蹴りが猫の腹にぶち当たった。それが初めて、そして最後に、猫に触れた瞬間だった。猫は庭に放り出され、ごろりと倒れたがすぐに立ち上がり、驚愕の目で少女を凝視したのち一目散に家の敷地から出て行った。
 少女はその出来事を、ママにも祖母にも言えなかった。
 日が傾いてきた。
 開けて。背中を預けるガラス戸の、その内側にいるはずの母へと念じる。その希望を口に出す勇気も、体力もなかった。
 悪いことをするとバチがあたるよ。祖母はかつて言った。あの猫のように自分も家から蹴り出されるようになって、少女は祖母の言葉を身にしみて分かった。
 祖母は色々なことを教えてくれた。たとえば、バチが当たるということを。
 そういえば、死ぬ前に過去の出来事を思い出すことは何て言うんだっけ。ナントカが走る。何だっけ。
 そうだ。『走馬灯』だ。

 5

 食堂車で食事をとっていると、黒一色だった窓の外がいきなり昼に塗り変わった。
 一面の青空。遠くに光る尖塔。
 窓の下に赤い屋根の家々と、石畳の町が広がる。
 汽車は街におりていった。汽車の大きさにあわせて通りが拡がり、木々は飛びのき、人々は道の端へ押しやられる。地面から湧くように真新しい線路が浮きあがり、その上を汽車が走って、減速していった。
 停止した汽車を、道ゆく家族連れや商店主やお屋敷の小間使いや役人や冒険者らが緊張して出迎えた。
 扉が勝手に開き、中から一羽のおしどりが出て来た。
「ホホホ、ホホホ」
 タラップを一段ずつジャンプして飛び降り、おしどりが二本の肉厚の足で石畳をヨチヨチ歩く。
「私はおしどりですよ」
「やあ、邪魔をして申し訳ない」
 罪人が出て来た。
「おまえの肉を追剥ぐにゃん!」
 猫。
「みなさん、ええっと、この中に、上への行きかたをご存知の方はいませんか」
 おしどりに飛びかかる猫を無視して罪人が言った。
「ホホホ、とろくさい猫ですね。ホホホ」
「上だと!」
 白髭を生やした老人が、怒りをこめて言葉を返した。すると人ごみを割って、いずれ英雄になるらしい少年が、無邪気な瞳を輝かせて飛び出してきた。
「すげえや! ねえ、その大きな乗り物お兄さんが作ったの?」
「下がってなさい!」
 老人の一喝。まだ世界を救っていない少年は、仲間に引きずられるように、人垣の外へ姿を消した。老人が前に出た。
「あんた、自分の格好が場違いだと思わんのかね?」
 罪人は自分の格好を検めた。化学繊維の細いパンツに合成皮革のジャケット。おしどりをしまうプラスチックのバスケット。
「ここは剣と魔法のファンタジーの世界だ。あんたみたいなのに居られちゃ困るんだ」
「これはすまないことをした――上への行きかたを聞いたら、すぐに出ていくこととしよう。どうやらあなたは知っていそうだ」
「ふざけている。お前のようなことを考える人間はろくなもんじゃないわい。教えることなど何もない。去れ!」
 すると空の向こうから、パトカーのサイレンが鳴り響き、それが次第にこの街の地上に近付いてくる。罪人はパタパタ飛んでいるおしどりと、むきになって追い回す猫とを捕まえて、順に汽車へ放りこんだ。そして最後にもう一度だけ一同を見渡し、背筋を伸ばし、馬鹿丁寧に敬礼した。
「それでは、失礼!」
 罪人を乗せて、汽車が空へと飛び立った。
 その後ろを空飛ぶパトカーがついて来る。パトカーは最大まで速度を上げ、罪人がいる客席の窓と並走する。
「こらぁ、止まらんかぁ!」
 汽車の窓を開けて、罪人は運転席の警部へ身を乗り出した。警部は顔を赤らめ、怒鳴った。
「これ以上無関係の世界を荒らすのはやめろ! こんな大掛かりなものまで作りおってからに」
「あんたこそ、少年探偵の世界に戻ったらどうだい? 密室殺人がお待ちかねだ」
「たわけ! 貴様のような悪質な罪人を見逃して帰れるか!」
「悪質?」
 微笑んでいた罪人の両目に、ほの白い怒りが宿る。
 汽車が加速。パトカーはあっというまに抜き去られ、黒い煙を浴びせかけられた。
 ため息と共に、罪人は窓をしめた。その時、向かいの座席に猫がいて、白いぬいぐるみにじゃれ付いていることに気付いた。
「お前、それどこから持ってきた?」
「追剥ぎにゃん、追剥(おは)ぐにゃん」
 猫はすまし顔で答える。罪人は呆れた。さっきの街のどこかで、ぬいぐるみを失くして泣いている子供がいるはずだ。
「なんて奴だ。子供の玩具を盗(と)るなんて」
 猫は涼しい顔で、
「罪人が追い剥ぎに説教だなんてちゃんちゃらおかしいにゃん」

 6

 夜になり少女は目覚めた。寒い。今は何時くらいだろう。いつもなら、もうそろそろ中に入れてもらえる頃なのに。
 窓の向こうに明かりがついていない。ママとあの男はよく、一晩どこかに行ってしまうことがあるから、今夜もきっとそうだ。
 寒い。家の中に入りたい。
 少女は目を閉じる。家にいない間、ママとあの男が何をしているか、大体想像がついていた。
 ぬいぐるみ。そう、うさぎのぬいぐるみ。
 猫がかんだり蹴ったりして、綿がはみ出たぬいぐるみ。目玉が取れたぬいぐるみ。あれは捨ててしまった。猫があれきり帰ってきていないことを祖母から電話で聞いて、恐ろしくなったからだ。
 一年前の真夜中に、ぬいぐるみを抱いて、こっそり団地を出た。ママに見つかりませんように。怒られませんように。オバケが出ないかな。怖いな。
 あの夜も寒かった。
 ごみ捨て場の前に、一台の車が停まっていた。大人に見つかってしまう! すかさず身を隠した少女は、しかし車の様子を観察して、その場に硬直した。
 車の中で、陶然たる表情で口づけをかわしている男女。それはママと『あの男』だった。
 それからぬいぐるみはどうしたっけ。ああ、そうだ。川に捨てた。
 ざわめきが聞こえてきた。自分と同い年くらいの少年少女らのざわめきが、団地の下の公道にある。まだ真夜中じゃないんだな、とぼんやり考えた少女は、唐突に思いついた。
 お月見泥棒だ!
 行きたい! 私も行きたい! ねえ、ママ!
 少女は暗いベランダから、お月見泥棒の一団に向けて見えない手を伸ばす
 私にもお菓子をちょうだい! 食べるものをちょうだい!

 7

 彼は罪人だが、罪人として生まれついたわけではない。
 テラフォーミングされた火星に降り立った。前回受けた苦言を考慮して、今回は都市から離れた赤土の荒野におりたてば、先回りして自分を待ち受ける者がいた。
 火星の夜は黒い。都市の白い光が空まで聳え、その光を背景に、一台のパトカーがあった。
 罪人と警部が向かいあう。
「あきらめてくれないか」
 ひとつ首を傾げてから、静かに訊いた。警部は厳かに首を振った。
「見過ごすことは出来ん。お前は罪人だ」
「俺が何をしたって?」
「自分で分かっちょるだろうが」と警部。「存在することだ」
 鉄の鳴る音。警部が手錠を持っている。罪人は目をそらさず、後ずさった。
「君の作者は、残念ながら亡くなった」
「……それがどうした」
「君の作者は、生前誰にもその作品を見せることはなかった。そして、生きている間に全てを処分した。だからもう君のいる場所はないんだ。上の人間は誰一人、君のことを知らん」
「そのことは分かってる」
「なら何故まだ生きている。君の世界にいた他の者たちは、皆もう消滅を受けいれたぞ。その仲間たちに対して申し訳ないと思わんかね?」
「いずれあんたにもくる道だ」
 充分に距離をあけたところで、彼は警部に告げた。
「いかに上の世界で有名になろうとも、いつまでもは続かない。いつかはお前を知る人間たちもみんな死に絶える」
「だがそれは今じゃない」
「その時が来たらどうするんだ? 黙って消えるのか?」
「そうするしかあるまい。我々の次元の人間は、上の次元で誰も知る者がいなければ、存在することが不可能なのだよ。存在する者がいるならば、それは幽霊だ」
「俺は生きている!」
「自分が死んだことに気付いてないだけだ。憐れな。大人しくこちらに来るんだ」
 赤い火星の土を踏み、警部が歩み寄ってくる。罪人は後ずさる
「それが君のためだ」
 背中が汽車の冷たい車体にぶつかった。逃げ場はない。彼は諦めなかった。首を横にふり、言った。
「幽霊ならば幽霊として存在すればいい。そのように生きることが、叶う時が来る」
「叶う時?」
「俺たちは、上の次元からこの架空の次元に落ちてきた。どの現実も、どの世界観もそうだ。そうやって、上の次元もいつかは下に、架空次元に落ちてくる」
「くだらない妄想だな。君の発言は、上……我々にとっての神の世界に対する侮蔑にほかならん」
「なぜ、あんた達はそんなに上を神聖視できるんだ? 上位次元の住人が優れた人間たちとは限らない」
「それはいいとして――確かめようがないからな、で、それが『叶う時』とはいつかね?」
 たしなめる口調と、短い嘲笑。手錠を手に、警部はいよいよ罪人を捕らえるため大股で歩み寄る。
 罪人は逃げなかった。間もなく警部の手に捕らえられるという、その時、彼は黒い夜空に顎を上げて叫んだ。
「――今だ!」

 8

 少女はもう自分が死んでいくことを分かっていた。したがって、これが最後の目覚めであることも、ぼんやりした意識の中で、しかし確かに分かっていた。
 耳を澄ませてももう、お月見泥棒の声は聞こえない。泥のような眠りに誘われて、もう一度意識を手放そうとしたとき、柔らかいものが落ちる微かな物音を捉えた。
 薄目を開けてみれば、何か白いものが手元にある。
 なんだろう。
 ぬいぐるみだ。
 川に捨てたはずなのに。
 最期の力を振り絞り、人形に腕を伸ばした。すると人形がズズズと動き、視界から出ていく。
「にゃん、にゃん」
 幼い声。
「追剥(おは)ぎにゃん、追剥ぐにゃん」
 どこから入りこんできたのか、猫が人形をくわえて引きずっていくところだった。少女は手を伸ばす。やめて。返して。その猫が、かつて自分が蹴り飛ばした猫だと気がついたのは、その時だ。
「ホホホ、ホホホ」
 靴――人間の足。
 そして光。
「私はおしどりですよ」
 知らない大人の男の人が目の前に立っていた。霞んでいた視界の霧が晴れ、目の焦点があう。絶えず全身に張り付いていた痛みが、火が消えるように薄らいでいくのを少女は感じた。
 ベランダの手すりの向こうには、汽車。
 信じられない。絵本とか、アニメとか、物語の世界みたい。
「トリック・オア・トリート」
 魔法のように呟く、その声は優しかった。『あの男』とはまるで違う。男の人の顔の周りを飛び回っていたおしどりが、ぱっと空中で動きをとめると、バラバラと形を崩してバスケットの中に落下した。
「おしどりはお菓子なんだ。ほら、色とりどりだろう?」
「お兄さん、誰?」
 目の前に差し出されたハロウィンの菓子、カボチャや黒猫や魔女やオバケをかたどった、飴やグミやクッキーにマシュマロ、ゼリービーンズ……それらを見て少女は尋ねる。
「お兄さんはオバケなの? ユーレイなの?」
「そうなのかな。いや、もう、そうじゃない」
 手を差し出された。何も考えずに、年齢のわりには未発達な痩せこけた手を、少女も差し出した。
「行こう」
「どこへ?」
「君が大人になれる物語(せかい)。君の手で創るがいい」
 あり得ないことだと分かっていた。しかし愉快なことであった。祝福を告げるように、長い汽笛が鳴り響く。
 晩秋の夜風に吹かれながら、二人は微笑みあう。罪人であることから脱け出た青年が、少女を汽車へと引き上げた。
「お兄さんは何てお名前なの?」
 扉を開けたまま、汽車が月へと動き出す。街の光が眼下に遠くなる。怖くはなかった。猫とぬいぐるみと、お菓子と。
「ソーマ――走馬だ」
 歓喜の汽笛が街に降る。月の軌跡を追うように、汽車の姿は消えていった。
 次第に夜の黒さが薄れ、東の空が明るくなる。

 やがて十一月一日の透明な朝が、少女の遺体を照らし出した。



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この短編は電子書籍の季節企画のアンソロジーに寄せたものですが、ツイッターで知り合いましたお方から鼻血が出るほどかっこいいイメージイラストを描いていただきました(´∀`*)
電子書籍のほうに拙作と併せて収録されますので、発行されましたら追ってご案内いたします。

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