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読みきり作品 吉野慧

投稿作品『渦』 著者:吉野慧


 冷たい街の中を歩いていた。誰もかれも、人形のような顔をしている。人形のように、私の周りを無意味に行ったり来たりしている。
強い風が吹くと、すべて泡になって吹き飛ばされそうだった。枯れたような木も、ところ狭しと並ぶ看板も。
街は私だけになってしまいそうだった。私は恐ろしいものを見てしまったような気がした。
 遠い空を見れば、針のように鋭い塔が幾つも幾つも並んでいた。
あかね色の空に突き刺さる光景は、どういうわけか私の心を不安にさせた。
どこかで、不気味な音も響いている。後ろを振り返ると、空は広々としていたのに、前に広がる景色はどこかむなしかった。
空は暗く低く垂れてきて、道と空との分かれ目がはっきりとしない。しかし、私の家はその向こうにある。だから私は恐ろしくても、先に進まなければいけない。
 
狭い路地は私の心を締め付けたし、自動車が風のように駆ける大きな道は、無限に広がりすぎて、どこかで消えてしまいそうだった。つまり行く道が見つからない。どこに行けば、私は家にたどり着くのだろう。

 戸惑いながら、とぼとぼと闇雲に歩く。すると、狭い道からちょろちょろと水が流れてきた。どうやら黒い点のような、小さな割れ目から、水があふれているようだった。
水はだんだん静かにあふれ出してきて、ついにひとつの大きなうねりとなって街を呑み込んだ。
淀んだ水が広がって、街は一個の大きな、湖のようになってしまった。はじめは小さかったのに、あっという間に巨大な穴になってしまった。看板も自動車も、すべて流されてしまった。私はこれらの流れる姿を見てほっとした。不自然なものが自然に帰ったようだった。騒々しかった街は静かに水の中に落着いた。

どういうわけか、私の帰る場所はここにあるような気がした。そうに違いないと思った時には、すでに水の中に飛び込んでいた。
水は私の体を受け止めると、やがて小さな渦をつくった。ゆっくりと空も水面まで落ちてきた。

水はすべて呑み込んで、じょじょにもとの小さな割れ目まで吸い込まれていった。
そうして、跡には何も残らなかった。
点のような割れ目から、いくつかの泡がふき出していたが、それもそのうちに、弾けて、飛んでいってしまった。



Comment

こんにちは!

拝読して、かなり時間を置いてしまいました。
感想を言葉に置き換えることがなかなか出来ず、
しかし言語化できない感情が胸に渦巻いていて、
たまらない気持ちになりました。

……いえ、「なっています」。

砕けたブロック塀が転がっている空き地から吹く、風の匂い。
小学生の頃、よく嗅いでいたその匂いが思い出されてなりません。

感想を表す文章として、成り立っていないコメントで失礼します。
ただ、大変に感情がかき乱されております。

No title

コメントどうもありがとうございます。

すごく後悔の残る作品でした。
後から、「あぁやっぱりあそこはこうすれば良かった」「もっとこんな感情を表現すればよかった」なんて思いました。

都市を舞台に書くのって難しいなと。色も薄いし、感情を揺さぶる景色も少ない。(もっとも、私の観察と表現力が乏しいというのもありますが)

また似たような主題で書きたいと思うので、どうぞよろしくお願いします。
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