お話の、あるところ。

スポンサー広告

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

竹の子書房用:黒実 操

【三面推理・賽銭を返せ! 男暴れる・探偵Side】黒実操著

 警察は驚くほど親切だった。
 だいたい、俺が推理を引っさげて出向いて行くと、露骨に迷惑顔であしらわれることが、ほとんどだった。なのに、今回は違った。
「あの、赤く塗られたマフラーの件で」
 受付で口に出した途端、奥にいた貫禄のある刑事らしき人物が走り寄ってきて、俺を応接室のようなところに通した。そして、じっくりと推理を聞いてくれたんだ。
 あんな待遇、初めてだ。
「市井の方からの貴重なご意見、感謝します」
 頭まで下げて、送り出してくれた。
 きっと警察でも、俺の推理と同じ結論に達していたのに違いない。
 それを察することができたので、もうあの件はよしとする。
 気分良く、家路に着く。
 切符を買って電車に乗った。持ち合わせはギリギリだったが、気持ちは豊かだ。
 楽に座れた。
 腰を落ち着けて、ふと横を見ると、新聞が置き去りにされている。
 ――雪魚新聞。
 知らないな。
 活字は大きめで、読みやすい。ローカル紙なのか? 出張か何かのお供で、読み捨てられたものかもしれない。
 手に取り、三面を開く。
 こちらでは得られない、小さな事件が載っているはずだ。
【賽銭を返せ! 男暴れる】
 案の定、面白小見出しが飛び込んでくる。女太鼓保存会ポンポコなどという、程があるネーミングも微笑ましい。
 思い浮かぶのは、漫画のような一場面だ。
 うっかり者の犯人が、荷台に女性二人を乗せたまま軽トラックを走らせる。気付いたときには、どんな顔をしたものやら。太鼓の練習中だったのならば、きっとバチも持っていただろう。勇ましい女性二人から、袋叩きに遭ってないとよいが……などと、ニヤニヤしてしまった。
 そして、新聞を畳む。
 車窓を流れる景色を眺める。コンビニ、バス停、マンション、ガソリンスタンド。
「ん?」
 ガソリンスタンドには軽トラックが止まっていた。その荷台に、店員が一人で灯油缶を積んでいる。
 軽トラって、あんなに小さいのか!?
 俺は、再び新聞を開く。
 事件の軽トラの荷台には、太鼓が積んであった。練習中とあるが、あの荷台に女性二人が乗って、太鼓を叩くのは無茶だ。荷台に乗っていたのは一人だろう。
 もう一人は何処にいたか。
 恐らく車に乗っていたはずだ。運転席にいたとして、犯人がそれを助手席側に押しやるか、もしくは脅して運転させたかという想像がつく。
 犯人もろとも、女性とはいえ大の大人が二人も姿を消している。
 軽トラは座席が二つしかない。二人共乗っていたのなら、車を発進させて逃げただろう。そして、二人共車の外にいたのなら、揃って逃げた……どのみち逃げたはずなんだ。
 だが、二人が車の内と外に別れていたとしたら、どうだ。荷台に乗っていた方の女性は、もう一人を案じて逃げなかった可能性が――。
 いや、待て。待て!
 大事なことを見落としていた。
【10月31日未明】
 未明!?
「女性」が「太鼓の練習」で「未明の神社」? 
 未明とは、日付が変わってから夜明け前までの時間帯だ。夏ならともかく、もう冬といってもいい季節だ。例え夜明け直前だとしても、変だろう。
 おまけに太鼓の練習ときた。この竹の子神社が、どんな場所にあるのか分からない。だけど、太鼓だぞ、太鼓。未明に太鼓。
 賽銭泥棒は分かる。夜陰に紛れたかったのだろう。だが、どう考えても女太鼓は変だ。
 ふむ。
 更に引っかかるのは、この「どうして宝くじが当たらないんだ」。行方不明の女性たちの他に、これを聞いた誰かいたのだ。
 俺の推理脳が、高速で回転を始める。
 たったこれだけの行数の中に、どれだけの違和感が詰め込まれているか。
 俺は前回の事件で、新聞の、新聞記者の魂というものを思い知った。
 記者本人により仕込まれた、違和感の意味を探れ。
 この記事も、俺のような者の閃きを求めて、世に放たれたのだ。
 責任の重さに、眩暈(めまい)がするようだ。
 そうだ。よく読め。
 魂の込められた記事を、読め。
【「どうして宝くじが当たらないんだ。一万円入れたのに」と叫んでいたと言う。】
 これを聞いたのは誰か。
 素直に考えれば、近隣の住民だろう。
 ということは、竹の子神社の傍には民家があるのだ。未明に太鼓の練習なんて、非常識極まりない。
 祭りが、この地区にとってどのくらい重要なのか不明だが、今現代、いくらなんでも夜明け前に太鼓を叩きまくって許される程じゃないだろう。
 この「女太鼓保存会ポンポコ」という一見ふざけた名前の団体には、それが許可されていた。
 何故か。
 答えは明瞭だ。ヒントは「女太鼓」。 
 この団体に属している女性達は、地域の有力者の妻や娘なんだ。そうでもない限り、こんな我儘を通せるはずはない。
 未明に練習していたのは、学校や家事のない時間帯だからだ。特に家事だな。こういう無理を通す、時代錯誤な地域だ。女が家事をおろそかにすることを、許すはずがない。
 よし。解けてきたぞ。
 賽銭泥棒の叫び声を聞いたのも、犯人の特徴を届け出たのも、同じ【人物】だと推理する。
 この【人物】は太鼓の音で眠れず、忌々しい夜を過ごしていた。ひょっとしたら何年も、祭りの時期が近付くたびに、同じ思いをしていたのかもしれない。カーテンの隙間から、神社を睨みつけている様が、俺には見えるようだ。
 積年の恨み。
 一連の騒音と騒動に、この【人物】の我慢の限界がきた。
 と、同時に、うるさい女太鼓を片付ける機会に気付く。
 新聞紙がカサカサと音を立てている。電車の振動ではない。俺が――震えているからだ。
 俺が導いた結論。
 賽銭泥棒は、この記事にあるとおり、五万円盗んで、叫んだ。そこまでは事実だ。
 しかしトラックで逃げてはいない。
 賽銭泥棒自体は狂言ではなく、実際にいたと俺は考える。この【人物】がでっち上げるならば、もっとまともな泥棒に設定するだろう。
 ――「どうして宝くじが当たらないんだ。一万円入れたのに」などというセリフは、作り事にしては、逆に素っ頓狂すぎるんだ。
 だからこれは、事実あったことだと断定する。
 記事にある彼の特徴はでたらめだろう。この【人物】は、泥棒が捕まっては困るのだから。
 泥棒に気を取られていた女二人を、この【人物】は何らかの方法……恐らくは背後から殴り倒して、殺害している。そして軽トラに遺体を乗せ、どこか目立たないところに隠した。
 住人ならば土地勘もあるだろう。一時的に車ごと隠し、後でゆっくりと隠蔽することは可能だ。
 事件により、未明の稽古も二度と行われないだろう。
 ここまで推理を固めた俺は、この竹の子町の最寄りの警察署に、進言に行くことを決意する。とりあえず場所を調べないとな。本屋で地図でも……。
 電車が停まる。
 ハッと、俺は我に返った。
 推理に夢中で、すっかり乗り過ごしてしまったようだ。慌てて降りる。閑散とした、小さな駅だった。
「ここ……何処だ?」
 焦る俺の挙動が不審なせいか、駅員が近付いてくる。
 さっき、切符を買ったときのことを思い出す。もう、財布には、百円硬貨が二枚と五円玉一枚――しか、なかった。
「お客さん、どうしました。失礼ですが切符を拝見してもよろしいですか」
 愛想よく話しかけてきた駅員の目は、笑ってはいなかった。  
 

 
 
 
Comment
Trackback
Trackback URL
Comment form













管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

黒実 操

Author:黒実 操
「竹の子書房」に参加中。
www.takenokoshobo.com/index.php
無償版電子書籍がたくさん!

管理人ツイッター
http://twitter.com/kuromimigen

最新トラックバック
検索フォーム
ブロとも申請フォーム
QRコード
QRコード

Page Top
Powered by FC2 Blog | | Template Design by スタンダード・デザインラボ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。