お話の、あるところ。

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竹の子書房用:黒実 操

竹の子書房クリスマス企画『クリスマスの謎々』黒実操著

■竹の子書房校正課の方々に、大変親身になって校正していただきました。そして訂正案もいただきました。
 この場をお借りしまして、熱く御礼を申し上げます。(誤字ではありません!)
 (以下本文♪)



「思い返せば、今年も色々ありましたなあ」
「鬼畜がいただろ。四十一人も貰い子を殺しちまった、ほら、養育費目当ての」
「天覧相撲を忘れちゃいかんね。三百何十年振りだって話じゃないか」
「やあ、やっぱりアレだよ。作家先生がてめぇの細君を、友達に譲渡したっていうアレ」
「そういや、濱口さんが撃たれたのって、まだ先月なんだな」

 三時の休憩に寛ぐ事務所内では、年の瀬に相応しい雑談が交わされていた。
 そんな中、ただ一人、青柳幸子(さちこ)だけは机に向かったままだ。その後ろ姿に、同僚青年の叶井正治(かないまさはる)が遠慮がちに声を掛ける。
「あの、ちょっといいかな」
「……はい?」
 算盤(そろばん)を弾いていた幸子は、不機嫌に顔を向ける。
「あの、あの、もう三時なんだけど、まだ休んでなかったんだね」
 正治は探るような目をして、おどおどと声を震わせていた。幸子には、それが嫌味ったらしく映ってしまう。
「仕事が遅くて失礼しました。終業までには仕上げてしまいますので、ご心配なく」
 ぷいっと、再び算盤に向かう。
「あ、あ、あの、ごめん、違うんだ。そんな意味じゃないんだよ。あ、あの、僕、お茶を持ってきてあげようか」
「――やめてくださいッ! 男の方が」
 今にも給湯室に走り出しそうな正治を、幸子は止めた。
「あ、ごめん。やっぱり邪魔してるよね」
「ご用件は何でしょう」
 計算は諦めた。幸子は正治に向き直る。
「ごめん、その、さ、今やってる計算って、僕の書類が間違っていたせいで、その」
「ええ、そうよ。明日一番にこれを先方に差し上げないと、お得意先を一件しくじることになるわ。だからお三時も諦めて、こうして頑張っているんです」
「あ、あの、ごめん。その、僕、気を付けてはいたんだけど、その」
 正治は顔を赤らめて、グズグズと続けようとする。
 幸子は遠慮なくそれを遮(さえぎ)った。
「こう、申し上げるのは、気が引けるんですけど」
「はいっ」
「こうしている時間も、勿体(もったい)ないのよ。叶井さんは、そうやって突ッ立ッている暇があるのなら、明日どうやって先方にお謝りになるのか考えたらどうかしら」
「…………」
 幸子は、再度算盤を弾く。
 パチパチ、パチパチパチ、パチ。
 ――背後から気配が去らない。
 パチパチパチ、パチ。
 間違いは許されない。検算に力が入る。
 パチパチパチパチ。
「……あの」
「まだいたんですか!」
 反射的に大声が出た。
 和気藹々(わきあいあい)と休憩を楽しんでいた事務所内が、ほんの一瞬静まり返る。
 極り悪く黙り込んだ幸子と、しゅんと立ち尽くしている正治に、周囲からくすくす笑いが漏れた。
「……ごめん」
「私の方こそ、すみません」
 幸子も、不本意だったが頭を下げた。周りは聞き耳を立てている。
「で、叶井さん、御用は何なのかしら」
 正治は、ぱっと顔を輝かせた。
「あ、あの、君、ナゾナゾとか好きでしょう」
「え、何ですって?」
「ナゾナゾ!」
「謎々?」
 幸子は首を傾げる。
「ほら、いつもお昼に読んでるじゃないか。謎々の本」
「――あれは探偵小説ですッ!」
 思わず声を荒らげた。
「わはははは!」
 それに応えるように、豪快な笑い声が響く。この事務所の所長だった。
「サッちゃんは、女だてらに探偵小説の愛好家だもんな」
 幸子は、まさか所長を睨み付ける訳にもいかず、ただ肩を竦(すく)めて恨めしそうに見遣った。
「……ごめん」
「あー。もうよろしいわ。で、それが如何(いかが)して?」
「あっ。あの、その、これ」
 正治が、背広の内ポケットから小さな封筒を取り出した。幸子に差し出す。
「何でしょう?」
「受け取って。これ、僕が考えたナゾナゾ」
「だから謎々じゃ……ああ、そうなんですね。ありがとうございます」
 幸子は封筒を受け取った。仕方のないことだが、生温かい。
「ちゃんと解いてね。解けたら、ご褒美があるんだよ」
すっかり悄気(しょげ)返っていた正治だったが、今は声を弾ませている。受け取ってもらえたことが余程嬉しかったのだろう。
「ご褒美?」
「うん。鍵はね、クリスマスツリーだよ」
 そういえば、今日はクリスマスだ。今朝方は幸子もそのことを覚えていたのだが、忙しさのうちにすっかりと失念していた。
「ええ、承知したわ」
「じゃ、僕はこのまま挨拶回りに行くよ。もう、御用納めの会社もあるからね」
「いってらっしゃい」
 幸子は封筒を机に置き、算盤を手に取った。
「所長の計らいで挨拶回りのあとはそのまま帰っていいんだっけ。そう、そうだな、あ、たまには、な、な、七橋堂で、こー、こ、こ、珈琲でも飲むとしよう」
 背後に正治の声を聞きつつ、今度こそはと計算を始める。

 その後は大した邪魔も入らず、無事に終業前には精査が終わった。
 所長が、機嫌よく労(ねぎら)いの言葉を掛けてくる。
「やぁ、これは助かった。おかげで明日は上手くいきそうだ」
「お役に立てて嬉しいですわ」
「さっきは大立ち回りだったな。気の毒に、叶井君、目を白黒させていたぞ」
「ま」
「彼も彼なりに、君にお詫びがしたいのだろう。さっきのナゾナゾでも解いてやったらどうだ」
「まぁ、そんなことまで聞こえていたんですね」
 幸子は恥ずかしさの余り、逃げるように自分の机に戻る。そのまま帳簿に隠れるように、頭を低くした。
 と、さっき受け取った封筒が目に入る。
 白い封筒に、クリスマスツリーの絵が貼り付けてある。どうやら手描きのようだ。
「叶井さんが描いたのかしら?」
 封を切る。
 中には、便箋が一枚。
 書かれていたのは、今回の件についての詫び言だった。
「謎々だって言ってたわね。暗号のことかしら? きっと単純に、ク・リ・ス・マ・ス・ツ・リ・ーの文字を抜き出すと、文章の意味が変わるとか、そんなもんでしょう」
 しかし、手紙に書かれている文字列に、その法則が当てはまる場所はない。
「あら、じゃあ、クリスマスツリーを何処かに入れ込めばいいの? ううん、違うわ。あの口振りだと、そんなに難しい問題じゃないはずよ」
 幸子は、すっかりこの遊戯に夢中になっていた。何度も何度も、正治からの手紙を読み返す。
 読み込むうちに、書かれていることが胸に沁みてきた。最初はただの詫び状だと思っていたそれには、実に控えめにだが、幸子への優しい想いが綴ってあった。
 一度や二度読んだだけでは、読み飛ばしてしまったかもしれない。
 こうして何度も熟読したからこそ――。
「やだわ。私ったら、何を考えているの」
 しかし、幸子はそれを振り払う。愚かな自惚(うぬぼ)れだったら、こんな浅ましいことはない。
「謎々よ。これは謎々なの。クリスマスツリー、クリスマスツリー……あっ」
 幸子は便箋を、机にそっと置いた。そして封筒を手に取る。
 貼り付けてあるクリスマスツリーの絵の部分を、指で何度もなぞる。ある感触を確かめ、電灯に透かしてみた。
「やっぱり!」
 謎は解けた。
 封筒のその絵を、気を付けてゆっくりと剥がす。
「――まぁ」
 中には、押し葉になった四葉のクローバーが隠されていた。
 時計が五時を打つ。
「さぁ、諸君。今日はクリスマスだ。早く帰るとしようじゃないか」
 所長が朗らかに宣言した。
 賛成賛成と声が上がる。
 幸子は、押し葉を見つめたまま唇を噛んだ。徐々にその頬が赤くなる。
 四つ葉のクローバーの言い伝えは《君に幸せを贈る》だ。それとは別に、花言葉もある。
 その言葉は――。
「よっ。サッちゃんも、早く帰りなさい。間違っても、寄り道なんかするんじゃないぞ」
 所長が傍に来て、さも何気ないふうに声を掛けた。
「特に七橋堂はダメだ。あそこはダメだ」
 さらりと囁く。
 幸子はガバと顔を上げた。所長は足を止めることなく、帽子を片手に、後ろ向きのまま手を振っていた。
 
「あっ、サッちゃん。来てくれたんだね!」
 クリスマスに浮かれるお客で満杯の、パーラー七橋堂。破顔する正治に、仁王立ちの幸子が問い掛けた。
「……どっちなんですか」
「え?」
「だから、どっちなんですかって訊いているんです!」
「え、はいっ、な、な何が」
 背筋の伸びた正治の背後から幸子に向けて、好奇心丸出しの視線が幾つも投げ付けられる。
「――あの、座ってもよろしいかしら」
「あ、ごめん。僕、気が利かなくて」
 正治は、向かいの席に置いていた鞄と外套を、自分の膝に移す。
 腰を落ち着け、店員にホットミルクを命じた幸子は、テーブルに件(くだん)の封筒と四葉のクローバーを置いた。
「叶井さんの謎々の答えはこれでしょう」
「わぁ、流石サッちゃんだ。凄いや! 所長が言った通りだ」
「……え?」
「うん。僕、サッちゃんにお詫びの手紙を書いただろう。それを所長に言ったら、普通にあげるだけじゃダメだ、サッちゃんはまともに読んではくれないから、仕掛けが必要だぞって」
 正治は無邪気に、実に楽しそうに話す。
「それでね、ナゾナゾを二人で考えたんだよ。ね、サッちゃん、最初、手紙のほうに答えがあると思っただろう? だから、きっと何回も読んでくれたんじゃないかな」
 その、油紙に火を点けたようにペラペラと喋る様に、幸子の胃の腑が押し潰される。
「ツリーの絵はね、所長が描いてくれたんだよ。娘さんにせがまれて、よく描いてるんだってさ。上手だよね。本当は他に入れるものがあったんだけど、所長がその押し葉をくれたんだ。女の子はこういうのが好きだぞって。 ――あれ、どうかした?」
 膝の上で握り締められた拳は、小刻みに震えていたが、幸子はできるだけ平静を装う。
「叶井さん、この四葉のクローバーって、まさかその所長の」
「だから、そう言ったじゃないか。へぇ、これ、四葉のクローバーっていうの。聞いたことはあるけど、初めて見たなぁ」
 正治はノンビリ顔で答えた。
「じゃあ、じゃあ、どっちの意味でもないの?」
「そういえば入ってきたときにも、どっちって訊いてたね。何が?」
「だから、その、言い伝えと花言葉と……」
「へぇ。そんなのがあるんだね。何ていうの?」
「――いえ、もういいの」
 幸子は己の一方的な勘違いを認め、机に突っ伏した。
「サッちゃん、ねぇ、サッちゃん。気分でも悪いのかい!?」
 何も知らない正治が慌てる。幸子は、このまま消えてなくなりたい気持ちで一杯だった。
「サッちゃんてば、、あの、ミルクが冷めちゃうよ。あ、もしかしてお腹が痛いのかい?」
「…………」
「あの、僕、その、もし、君のお家が許すのなら、これから青木屋の大ツリーを見に、一緒に、でも、もう帰ったほうがよさそうだね」
「……」
「ああ、最初にツリーに入れるはずだったのはね、【七橋堂】って書いた紙だったんだよ。でも、所長がそんなの野暮だって。サッちゃんは勘がいいから、仄(ほの)めかすだけで分かってくれるって。やっぱり所長は凄いね。本当にその通りだった」
 幸子は、ゆっくりと身体を起こした。
「あれ、やっぱり具合が悪いみたいだね。真っ赤だよ」
「ま、真っ赤だよじゃないわ。大体具合なんて何ともなくてよ」
「あ、ごめん。あの、じゃあ、何を怒っているんだい? その、ツリーはやめにしようか」
「何でやめるのよ! ……ご一緒するわ」

 四つ葉のクローバーの言い伝えと花言葉は、それぞれ別の意味がある。
 少女向けに書かれた感傷的な小説で、そのことを知った者も多いだろう。幸子もそうだった。
 長く読み継がれているそれは、今の少女にも影響がある。深く感銘を受け、家族――例えば大好きなお父さんに、それを教えてあげた娘がいたのかもしれない。

クローバーの花言葉
《私のものになってください》

 全ての人に、良き降誕祭を!



Comment

No title

いやー、幸子さんデレたね。
キュンとした。ほっこりした。
なぜか幸子さんがクロミミ嬢っぽく感じるのは気のせいかしら。
そうだったら良いなと思う私の気持ちからなのかな。
それとも嬢の乙女心の表れかな。
心温まる作品をありがとう。

MaDrineさん江。

ありがとう!

しかしこれからリテイクを書くのですが、
ぼかして書いてた幸子さんの恥ずかしい部分が丸出しに!wwww
どうか読後感が悪くなりませんようになむなむ。

クロミミ嬢は、こういうとき
「絶対に事務所ぐるみの罰ゲームだ気を付けろ」
モードになるのよ☆ うふふ//////

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