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とよね作品

サデスパー堀野氏生誕記念小説 『煙草を買いに行きましょう』 とよね著


 煙草(モク)が切れた。
 堀野は原稿の手を休め、買いに行くことにした。小銭入れを持ち家を出れば、寒かれど快晴、夜空にはレモンのような黄色い十日月が浮いていた。
 いつもの辻に行くと、小さな煙草屋から明りが漏れて、営業していると分かる。もう夜の十時半をすぎているのに、珍しいことがあるものだ。訝しく思う一方で、有難くもあった。その小さな店の傍らにある自動販売機は、何を書いてあるのかよく分からないのだ。
 文字が滲んで読みにくいということではない。文章がおかしいということでもない。

『あっけるまか だがるべんべ みずみずだか ずべっへ』

 単語にすらなっていない。
 これが本来『喫煙はあなたの肺がんのリスクを高めます』だったか何か、そういうことが書いてあった場所に、代わりに書かれている。
 ディスプレイを見れば、

『げへるぐちょねぶら ¥280
 よるんしゅべがるど ¥320
 べるべおんべんだうげっうー ¥380』

「普通の煙草ください」
 キオスク型の店舗の、ウィンドウの向こうに座る色の白い老人に呼びかけた。すでに誰かの先祖になりつつあるという風格を、紙のようにかさついた肌にはりつけている老人だ。
「ああ、はいはい」
 先祖は堀野が手に取った煙草を見て、目やにでうるむ目をしばたたいた。
「380円ね」
 会計をすませ、コートのポケットに煙草の箱をしまうと、ふと興味が湧いて尋ねた。
「珍しいですね。こんな時間に店を開けてらっしゃるなんて」
「ああ、今日はね、あれでね」
 売れ残りの夕刊の向こうで指をこすりながら先祖は口をすぼめた。
「怪獣ニニシッシが来るからね」
「……はぁ?」
「怪獣ニニシッシ」
 二人は見つめあった。何か聴き間違いかと思ったが、そうでもなさそうだ。
 ふと妙な気配を感じて視線を上げれば、近くの民家の二階からこちらを見下ろしていた人影が、さっとカーテンの陰に姿を隠した。気付けばそこかしこの窓から、堀野は見下ろされてた。監視者たちが身を隠す。
 堀野は何も言わず、足早に辻を遠ざかった。
 どうも薄気味悪い。コンビニで菓子でも買って、気分を変えて帰ろう。
 果たして国道沿いのコンビニで、チョコレートを店主のおっさんに差し出すと、おっさんはニコニコしながらこう言った。
「もうすぐニニシッシの時間ですなぁ」
「はいっ?」
「ほら、もうすぐ22時44分じゃないですか」
 と、ケラケラと笑い出す。
「何です、その……」堀野は躊躇いがちに尋ねた。「怪獣ニニシッシって」
 おっさんが真顔になる。真顔を通り越して、恐怖を感じるほどの目つきで堀野を凝視する。
「お客さん、分からんのですかねぇ」
「はっ、いや、わかりませんよ」
 するとおっさんが非常警報ベルを鳴らした。堀野は逃げ出した。自分が悪いことをしたと思ったわけでなく、警報音が大きいのでびっくりして反射的に走り出してしまったのである。
「その男だ!!」
 道に飛び出したおっさんが、堀野の背中に叫んだ。
「あいつが並行宇宙人だ! 捕まえてくれ!!」
 するとワラワラ、ぞろぞろ、バタバタと、人の気配が自分の背後に連なってくるではないか。
「22時44分になるとねぇー!」
 追っ手の一人が叫んだ。
「怪獣ニニシッシがくるんだよおおおおおぉーっ!!」
 するとまた別の人が
「22時44分になるとねぇー!」
 大合唱になる。
「怪獣ニニシッシがくるんだよおおおおおぉーっ!!」
 堀野はどうにか自宅に逃げこんだ。鍵をかけ、チェーンをかけ、滝のように流れる汗をふきふき取りあえず仕事部屋を覗きこめば、机に散らかった原稿の中から女がわらわらと生えてくるところだった。
「何だおまえはー!」
 机に両手を突き、原稿から既に上半身を出し切った女が満面の笑顔で答えた。
「天才とよねちゃんですぅ~(´∀`*)」
 玄関が激しく叩かれる。堀野はハッとして時計を見た。
 22時43分。
「怪獣ニニシッシを討伐に来ましたぁ~(´∀`*)」
「な、何でもいい、助けてくれ――」
「了解ですぅ~(´∀`*)」
 居間で窓が破られた。乱打される仕事部屋のドアを押さえる堀野の後ろで女が踊り、叫んだ。
「エターナルフォースブリザードオオォォォーッ!!!」

 そして世界が滅亡した。


Comment

No title

こんばんは!
とても想像しやすい描写でありながら、このラスト(笑)ギャップが面白かったです。なんだか、諸星大二郎の漫画「カオカオ様」を思い出しました。

こんばんは♥

感想を下さってありがとうございます。
これは私の友人のお誕生日プレゼントとして書いたものですが、定期的ににこのような変なものを書きたくなるのです(笑)。

吉野さんの小説も全て読ませていただいております。
感想を言ったり伝えたりするのが苦手なもので、なかなか気の利いたことなど言えないのですが、楽しみにしております。
今後ともよしなに……。
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