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読みきり作品 吉野慧

投稿作品『骨』 著者:吉野慧


風が、とてもゆっくりと部屋の隅へと延びていく。
自分の場所がなくなるようで、なんだか窮屈な気持ちになった。

窓の外を眺めると、雨が忙しなく地面を叩きつけていた。
細かな粒が土を穿ち、埃を巻く光景は恐ろしかった。

骨壷をベンチの横に置いて、闇雲にうろうろしてみるが、駅員はいなかった。
無人駅なので、いるはずも無いのだが、それでも誰かいないかと探してみた。
ところが、わたしだけ、わたしと、この骨壷だけなのだと分かると背筋が冷たくなってきて、人を探したことを後悔した。

時間になっても、電車は来ない。

雨は益々勢いを増して、まだ夕方なのに外は真っ黒になった。
生温かい風が隅から隅へと延びていき、骨壷に入っていった。隙間から、ずぶずぶ滴るようだった。
骨壷に入って、そして抜けていく空気が不気味だったので、どうにか漏れないように両腕で抱えて、触れたくもないのに、必死に蓋を押さえていた。

そうやってしばらくすると、外にぼんやりとした黒い塊が見えてきた。
塊は人のかたちになり、そして親子のようになって、駅の待合室に入ってきた。
沖から上がったばかりのように濡れた少年らしきものは、鞄からタオルを出して母親と思われる影に渡していた。
母親はそのタオルで少年を拭いているようだった。
なんだか、ぼんやりしていて、ハッキリとしない。
重たい霧が部屋の中で漂っているようだった。

ふいに、壺の中の骨が動いたような気がした。
勝手に動いたのか、あるいは底に溜まった風がそうしたのかもしれない。

ガサガサ音を立てて、人間のかたちに戻りそうだった。
絶対に出したくなかった。
こんなところでまで、恥をかかされたくないと思った。
泣きそうになりながら、身体全体で必死に蓋をした。

蓋を押す力は、まるで嵐か津波のような勢いになった。
どうしよもなく目前の影に「手伝って下さい。骨が、骨が」と頼んだが、まるで聞いてくれない。
聞いてくれないどころか、わたしのことを見ていない、見えていないようだった。

やがて、暗闇を突き抜ける光があらわれて、雨に反射して部屋を照らした。
ぼんやりとした大きい方の影は、わたしの横を通り過ぎるときに、骨だけになっても愛してくれる、とつぶやいたように聞こえた。
ああ、どこかで見た気がする。
ずっと遠い昔の、古い記憶が静かに揺れたような気がした。

わたしは立ち上がろうとしたけれど、骨壷のためにどうしてもここから動けなかった。
黒い二つの塊が互いに強く繋がって、光の方へと進んでいく後姿を、わたしは骨壷を胸に押し付け見送った。



Comment

大変にお久しぶりでございます!

このお作品にもまた、吉野さんの新たな一面を見せていただいたような感じを受けました。

「風」「水」「土」のモチーフを強く感じて、
これに火がないのは不自然だ…と立ち止まったのですが、
「骨壷」→「火葬」→「火」ではないかと閃きました。
考察厨の勝手な妄想かもしれませんが、胸が高鳴りましたよ!

>こんなところでまで、恥をかかされたくないと思った。
この一文に、物凄い背景の凝縮を感じました。
私が思っている以上に、このお話は奥深いのだと……。

No title

こんばんは。
お久しぶりです。

強く意識して書いていたわけではないのですが、わたしも書き終わった後に同じことを感じました。笑
きっと、どこかにそんなイメージが潜んでいたのかもしれません。

背景はある程度考えました。
が、どうもうまく表現しきれず、無理やりに差し込んだ一文でした。
もっと、間接的に全体に広げていけるよう頑張りたいと思います。

コメント、そして載せて下さってありがとうございます。
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