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読みきり作品 吉野慧

投稿作品『見えない花』 著者:吉野慧


 砂漠のような畑を耕す二、三人の男たちがいた。

どれだけ土を掘り返しても、肥料を加えてみても、なにかが育つとはとても思えないのである。
さらりとした肌触りの、寝転べば身体を包みこんで、深い土の下まで運んでくれそうな畑である。

どうして彼らは土地を育み続けるのか。

わたしは来る日も来る日もその男たちを見に足を運んだのだ。
懸命に、力づよい意志を目に宿らせて、それしか知らない盲者のように同じことを繰り返している。
その連続には、怖ろしさすら感じる。
開くことのない種を愛しみ、咲くことのない花の香りを嗅いでいる。

「もっといい土地に花を植えてはいかがですか。東には湿った温もりのある土地が広がっているというのに」
ある男は手を休め、陽を避ける帽子を脱いだ。
「もっともなことです。しかし、わたしたちはこの西の外れを耕したいのです」

なぜだろう。ここには花など咲かないのに。

「花なら、もう咲いていますよ」
「どこに?」
「どこにでも。あなたにはその花が見えていないのです」

わたしはキャンパスのような純白のバラが好きだ。
芳しい香りの中で、花の柔らかさを感じ、生きている感触を感じたい。

「そんなものは、実際には存在しないのです」
「存在しない?」

「あなたは、見たいものはどこかにあると思いこんでいる。しかし、世界の果てまで行っても、そんなものはありません。ユートピアも。心の休まる、死にたいと思うほど美しい海岸線も。見たいものを見たければ、目を閉じることです。目を、大きく見開くのではなくね」

砂漠には、遠い彼方からの陽が、力を失うことなく強烈に差し込んでいた。

男たちは強すぎる太陽の下で、汗もかかず、夜の冷やかで澄んだ月光を感じていた。
そしてそれは存在しない。

わたしは目を閉じた。
声が聞こえる。
どこかで鳥が幾重にも鳴き重ね、ライオンが森を駆けている気がした。
香りを感じる。
ナイアガラの村で、愛しあって一つに繋がってしまった男と女の姿が見えた。
懐かしい光景だ。
気付くと、自然と涙がこぼれてしまっていた。

しかし、目を開けると、そこにはなにもなかった。
延々と続く砂漠の褐色と暑さが、わたしの目を傷めてしまい、もう瞳を閉じることなんて出来そうにもなかった。



Comment

嗅覚。

土埃と芳醇な水と、両方の匂いを感じました。
吉野さんのお作品には、嗅覚を刺激されることが多いです。

ある、そして、ない。
虚しいはずなのに、とても幸福なことに思えてしまうのはなぜなんでしょう。
このことについて、ずっと考えていました。
でも、答えは出ません。それでも、これからも考え続けます。

>愛しあって一つに繋がってしまった男と女の姿が見えた。
「しまった」という言葉に、ものすごく囚われてしまいました。胸がぎゅっとなって、苦しかったです。
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